モズカッチャンはキレるハービンジャー産駒ーーフローラS(2017年)回顧

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3着までにオークスの優先出走権が与えられるGⅡフローラSは、未勝利→500万下を連勝して臨んだモズカッチャンが直線内から鋭く伸び、前で粘るヤマカツグレースとフローレスマジックをまとめて差し切り1着でゴールしました。

道中2、3番手にいたヤマカツグレースとフローレスマジックがそれぞれ2着、3着となりオークスへの優先出走権を獲得。

 

ハービンジャー産駒のワンツー

1着のモズカッチャン、2着のヤマカツグレースはともにハービンジャー産駒。

今年の3歳世代は「ハーツクライ産駒の当たり年」とよく言われますが、ハービンジャーも負けておらず、皐月賞2着のペルシアンナイトを筆頭に2勝以上はモズカッチャン、インヴィクタ、サトノアリシア、サトノリュウガ、モーヴサファイアの6頭と質量がともに揃ったラインナップ。

これまでのハービンジャー産駒の特徴としては、3歳重賞の京成杯(中山芝2000m)をベルーフとプロフェットが連覇し、京都2歳S(京都芝2000m、内回り)をドレッドノータスが制していることから、小回り・内回り向きで上りのかかる競馬が合うと考えられていました。

現3歳世代のハービンジャー産駒は、ペルシアンナイトがアーリントンCを、モズカッチャンがフローラSを勝ったことで、直線の長い阪神の外回りや東京でもキレる脚を使えることが示されつつあります。

ハービンジャー産駒もデビューから今年で3世代目。これから産駒の適性もより日本の競馬にフィットするものに変化していくのかもしれません。

 

3歳牝馬はハイレベル?

ソウルスターリングが桜花賞で3着に敗れ、皐月賞に参戦したファンディーナが牡馬の壁に跳ね返されたこともあって、これまでそこかしこで耳にした「3歳牝馬はハイレベル」という声もあまり聞かなくなりました。

フローラSでは3歳牝馬のトップレベルに位置するリスグラシューとアドマイヤミヤビに好戦歴のあるフローレスマジックが出走。この馬がフローラSでどのような走りをするかが、この世代の牝馬のレベルを測るモノサシになります。

それでは、レースの内容を振り返ってみましょう。

 

レース内容

戦前の予想通りに内からタガノアスワドがスタートを決めて2角でハナに立つと、ヤマカツグレース、フローレスマジックがそれに続きます。多頭数+東京コースを意識してのものかタガノアスワドの国分恭介騎手はペースを落とせるなら落とせるだけという逃げ。距離に不安のあるヤマカツグレースが前を突つくこともなく、前半の1000m通過は61.5秒のスローペースに。

4角から直線にかけてもタガノアスワドが後ろを引き離しにかかりますが、好位にいたヤマカツグレースとフローレスマジックの手応えも楽で、じわじわと脚を伸ばします。勝ったモズカッチャンは一度最内に突っ込んでから、下がってきたタガノアスワドを交わして外に進路を取り、最後は33.9の末脚で粘る2頭を交わしてゴール。

直線で外から伸びてくる馬は見当たらず、先行した3頭をモズカッチャンだけが差したというレースになりました。後半の1000mが59.8秒(12.8 - 12.3 - 11.5 - 11.2 - 12.0)で、中弛みの区間はどの馬も動かないままで最後の3F勝負だと、もう少し馬群が凝縮していないかぎり物理的に前に届かない流れに……。ホウオウパフュームの位置だと前を捉えるためには33秒半ばの上りが必要だったと思いますし……。

 

モノサシとしてのフローレスマジックは?

フローレスマジックはこの牝系らしいしなやかなストライドで走るタイプですから、直線の長いコースでビュンと弾けなかったのは少し不満が残る内容。休み明けで前走時マイナス4kgと馬体重を減らしてしまったことを見ても、まだ成長途上なのでしょう。

今回はアルテミスS2着、クイーンC3着の時ほど走れているとは思えないので、この内容をモノサシにしてOKかは疑問です。

また、レース内容でも述べたように、スローの上り勝負で先行有利なペースになったため、外から差してくる馬が1頭もいない……という各馬が力を出し切れたとは言えないレースになったことも、全体のレベルを測るには物足りない結果になりました。

 

モズカッチャン 1着

1枠の和田騎手ですから、スタートを出して先行勢のすぐ後ろのポジションを取ります。2角のところでザクイーンに前へ入られて少し頭を上げましたが、それ以外はスムーズな追走。

直線では最内に進路を取ってから、タガノアスワドを下がってくるタイミングに合わせて外に持ち出し、ヤマカツグレースとフローレスマジックをまとめて交わしました。

ピッチ走法から繰り出される瞬発力が抜群で、上り33.9以上のインパクトがありました。外に持ち出しながらの差し切りですから、この器用さと末脚の威力はかなりのものです。

脚の回転の速い走法なので、東京など直線の長いコースではスローが希望。オークスでも持続戦にならなければフローラSのような脚を使える可能性はあります。

気になるのは、3連勝したレースは小倉→中山→東京と遠征でのもので、オークスは再度の長距離輸送になりますから、目に見えない疲れが心配です。

 

ヤマカツグレース 2着

前走、スローの君子蘭賞(阪神芝1800m)は2番手でスムーズなレースができていたことから、距離が2000mに延びてもかかるようなところはないだろうとは思いましたが……

タガノアスワドのスローの逃げを2番手でスムーズに追走できたことが好走の要因として挙げられます。アスワドが離し逃げの形に持ち込むかなと想定しましたが、初の東京コースということもあって溜め逃げに。この形だとヤマカツグレースも追走が楽で、瞬発力勝負では分がありますから直線では前をすっと交わして先頭に立ちました。

後ろから迫るフローレスマジックを最後まで抜かせなかったのは素晴らしく、この展開でモズカッチャンに差されてしまったのは力負けというところでしょう。

この馬も本来は小回り向きのハービンジャー産駒で、フローラSはスローになったのが功を奏した内容。さらに距離延長となるオークスで今走以上のパフォーマンスを発揮できるのかは「?」がつくものの、配合的に強いクロスを持たないので半兄のヤマカツエースと同じようにこれから着実に成長を見せると思います。

内回りの秋華賞はこの馬にとってはベストの舞台になりそうですね。

 

フローレスマジック 3着

戸崎騎手が出して行くと、外目3番手の位置で流れに乗り終始スムーズな追走。

直線で追い出されてももたもたとした感じで、ストライドが美しく伸びきるようなシーンはなく、ゴール前でもジリジリという脚色になってしまいました。

直線で「びゅん」と弾けないのは、馬体がまだパンとしていないからでしょう。本来は追って味のあるタイプ。それだけに直線でのストライドを見てもまだまだ成長途上の段階だと言えます。ただ、それでも一定の脚は見せていますからポテンシャルがあるのは確かです。

オークスへの出走権を確保したものの、本番への出否は未定。フローレスマジック陣営もこの馬の成長を促したいという意図があるはずで、ムリをしてオークスに出走させるのか、それとも秋に備えて休養に入るのかは注目です。

 

タガノアスワド 4着

直線でヤマカツグレースに交わされてからもジリジリとした伸びを見せ大きくバテずに4着を確保しました。結果から言えば、残り1000〜600mをかなりペースダウンして中弛みさせたことが、差し追い込み馬の台頭を許さなかった要因になりました。

もう少し前半を出して行って、離して逃げの形に持ち込めていたらヤマカツグレースとフローレスマジックが壁になり、タガノアスワドにとって理想の展開になったはずです。

1勝馬ですから、500万下から仕切り直しのレースになり、ハナに立ってマイペースに持ち込めれば今後も一定の力を発揮できると思います。

 

ホウオウパフューム 8着

スタートは五分に出てから中団に下げて、道中は馬群の中を追走します。田辺騎手が外に出すタイミング図って馬を誘導しようとしますが、3角ではレッドコルディス、4角ではビルズトレジャーが外に蓋をする形で、追い出されたのが直線の坂下から。馬群を割る競馬になり、一瞬の加速に長けたタイプではないので、直線でもジリジリとした伸びになりました。

ハーツクライ産駒ですから、クラシックで好走することを考えると春の時点でどこまで完成するのかが鍵になりますが、今回はまだ力が付き切っていない力負けという内容でした。

ただ、この馬も俊敏に切れるタイプではないことが分かりましたから、本来は平均ペースを先行して押し切る競馬が合っているように感じます。前走の寒竹賞の追い込みからびゅんと加速するイメージがついてしまったものの、じっくりと成長を待って脚質をシフトすれば上のクラスでも……

力が付き切っていない状態ながら寒竹賞で牡馬を後方から斬り捨てた脚はポテンシャルの高さを示すには十分な内容。じっくりと今後の成長を待ちたいですね。

 

予想

◎モズカッチャン、◯フローレスマジックで何も当たらないとは……チーン。

ヤマカツグレースが無印なので致し方なしの結果。

hakusanten.hatenablog.jp

ゴール前は何とかフローレスマジックがヤマカツグレースを交わしてくれないか念じましたが、脚色的にも分が悪かったのでWINSではまったく叫びませんでした。

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まとめ

桜花賞組を脅かす存在が現れるのかに注目が集まったフローラS。牝馬の重賞ではデフォルトとなっている中弛みのスローペースで、各馬がきっちりと力を発揮できたのかは微妙なレースになりました。

ただ、この流れをコースロスなく回れたのを差し引いても上り33.9で差し切ったモズカッチャンは見事で、和田騎手の直線での進路の取り方も溜息が出るほど素晴らしかったです。

弥生賞の回顧でも書きましたが、やはり「これだけスローになると本当の強さは分からない」ので、フローラSは評価の難しいレースに。オークスを予想する上で、このレースの評価は避けて通れませんから、この後じっくりと考えます。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。